2009年9月6日
魂のガイド・ブック 2 『神秘学序説』高橋巌著
本書は1975年初版の記念碑的な作品と言えます。わたしは、80年になって始めて読んだ ので、出版後すでに5年が経過していたことになりますが、以来29年間の愛読書です。
神秘学と現代のわたしたちの意識とのつながりの必然性のようなものが切実に伝わってくる内容 です。 「愛のラディカリスト」「認識の光」「ヨアキム主義の系譜」「フロイトとユング」『シュタイナ ーの認識の行法』など現代の魂にとって神秘学がなにを語りかけるかが詳述されています。
高橋氏が、強調するのはユングやシュタイナーなどの思想の根底に流れる「個体主義こそが、現代 人の魂の危機を救済しうる原理となりうる」ということではないかと思います。
あらかじめ与えられた社会規範や共同体原理に帰属することでは、もはやわたしたちは精神の安ぎ を得ることは困難なほどに「意識が明るく」なっています。それはシュタイナーが言う「悟性魂 から意識魂へ」時代意識がシフトしているためと思われます。
わかり易く言えば、家族や地域共同 体などのなかにもはや、故郷を見出せない孤独を誰もが抱える時代なのです。 そんな孤独な魂が、調和を得る指針として現代神秘学の可能性を問う啓明の書となった本書はその 後のシュタイナー思想や教育の普及の根底を支える思想的方向付けを網羅しています。
高橋氏は学生運動の終焉とともに大学の教職を辞して、1979年にルドルフ・シュタイナー研究 所(現在の人智学協会)を設立し、子安氏・上松氏などを招いてシュタイナーの学習会を始めます。 その後両氏は袂を分かつことになりますが、それぞれの立場で日本での人智学運動の基盤が整って ゆきます。
現在も分裂と多様化を抱える日本のシュタイナーに関わる流れを見ていると改めて本書 の重要性が痛感されます。
学生運動の破綻と敗北感の中から、蘇ってきた「意識魂の火」のようなものが本書には感じられる のです。それは、大学人にありがちな講壇の思想ではなく、生き生きと血の通った思想としての神 秘学の魅力を余すことなく語りつくしていると思われます。今後も尽きない知恵を与えてくれそう な「水晶のように結晶化した」テキストと言えるでしょう。
わたしも学生時代に高橋先生の講義、 子安先生の講義に熱心に通った思い出が今も「意識魂の火」のようなものとして、小さな火とし て燃え続けています。
やまねこ(=^o^=)でした。