メンタル・ヘルス3

2007年10月24日

人格は氷山の一角か?

最近、よく話題になる「心と人格」というテーマについて考えています。
適応障害、解離性、欝病などなど心の問題に悩む人は年々増えているようです。社会が複雑化し、不況・リストラが常態化し、家庭が崩壊し、学校が崩壊し、慢性病が増え少子高齢化社会ですから、当然のことかもしれませんが社会システムが弾力性、更新力を失いつつある 環境で「心の故障」が増加するのは、当然といえば当然な成り行きのような気がします。
心の問題の中で、とりわけ話題になるのがパーソナリティー障害と言われるものです。何らかの事情で、心の社会的機能・人格的機能に故障が生じて、社会生活に支障をきたしてしまうという神経症と精神病のボーダー「境界線症例」がよく知られています。例のひっこしおばさんなどは典型的でしょう か。正常な生活を営む能力はあるのですが、一部に突出した傾向が際立ち社会生活・・主に当人と周囲に困難な苦痛をもたらし、当人と周囲が苦しむというものです。勿論これは程度の問題で正常な人にも多少はみられる傾向です。
ただ、この病気がなかなか病気と自覚されにくいのは日本の社会システムや国民性 にあるのでは?と思っています。日本ではもたれあい社会で、依存や共同性が「身内感覚」で容認されることが多く、欧米のような完全個人主義ではないからです。そういう意味ではアメリカという個人社会で生まれた診断基準をそのまま日本で適用するのはむりがあるのかもしれません。
ひっこしおばさんのような近隣トラブルが起きると必ず「あの人はいつもこうでした。」と周囲の意見として被害者への加勢が起きますが、このあたりが問題を複雑にします。かならず被害者側から見ようという傾向。それは、被害者からも加害者からも離れて、客観的に個的に見る・・という基本的な事実認定を困難にしてしまうことが多いようです。さらにマスコミが加勢すると問題は既成事実になってしまいます。こういうシチュエーションそのものが、解離性という意識をさらに強める傾向があると思うのです。
香山リカさんが「プチ・ナショナリズム」の中で指摘していましたが、アメリカという国家の所作・振る舞い・行動原理は人格障害そのものである・・というのです。
イラクの無辜の市民を爆撃することにはなんのためらいも無い一方で刑務所内の人権問題を声高に問題視するという乖離。グローバリズムを提唱しつつも、自国だけは規制の枠から抜けがけする巧緻な手法などたしかに人格障害的です。日本もアメリカに続かないよう一度立ち止まって考えるべき時期かもしれません。
パーソナリティー障害の内発的素因の多くが「愛情への飢餓感」や「見捨てられ不安とパニック」と言われていますがそれほどまでに現代の社会変化は急速で「もたれあい社会」からアメリカのような「個人が投げ捨てられたまま」の冷たい個人社会に向かっているのかもしれません。
これは社会システムや制度の問題ではなく、「魂の問題」と思いますがいかがなものでしょうか?
ひっこしおぱさんは、当該の被害者とは無関係の近隣の人からは「まったく問題の無いいい人」と 言われる面も持ち合わせていたことを考えるべきかもしれませんね。
やはり、「診断」とは治療に向けての診断であって、単に判断材料ではないという面が看過されないように配慮が必要でしょうか。
マスコミでこうした診断用語が一人歩きしないことが大切と思います。
それは、メディア上での二次的乖離を生み出すと考えています。


(参考)
境界性人格障害(診断基準DSM4)
対人関係、自己像、感情の不安定および著しい衝動性の広範な様式で、成人早期に始まり、種々の状況で明らかになる。
 以下のうち、五つ(またはそれ以上)で示される。
1.現実に、または想像の中で見捨てられることを避けようとする気違じみた努力。  
注:基準5で取り上げられる自殺行為または自傷行為は含めないこと。
2.理想化とこき下ろしとの両極端を揺れ動くことによって特徴づけられる不安定で激しい対人関係様式。
3.同一性障害:著明で持続的な不安定な自己像または自己感。
4.自己を傷つける可能性のある衝動性で、少なくとも二つの領域にわたるもの(例:浪費、性行為、物質乱用、無謀な運転、むちゃ食い)。  
注:基準5で取り上げられる自殺行為または自傷行為は含めないこと。
5.自殺の行動、そぶり、脅し、または自傷行為の繰返し。
6.顕著な気分反応性による感情不安定性(例:通常は二三時間持続し、二三日以上持続することはまれな、エピソード的に起こる強い不快気分、いらいら、または不安)。
7.慢性的な空虚感
8.不適切で激しい怒り、または怒りの制御困難(例:しばしばかんしゃくを起こす、いつも怒っている、取っ組み合いのケンカを繰り返す)。
9.一過性のストレス関連性の妄想様観念または重篤な解離性症状
(注)
人格障害には、このほか強迫性・依存性・回避性・自己愛性・演技性・反社会性・シゾイド・スキゾタイパルなどがあると言われています。いずれも正常な性格類型と連続性がありますので、一般の性格類型と病理との見極めは困難で医師の診断が必要です。

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