美と直観なくして 
宇宙エコロジーは存在しない
  R.バックミンスター・フラー

バックミンスター・フラー(1895~1983)はアメリカのマサチューセッツ州出身の数学者、思想家、発明家、建築家です。1913年ハーバード大学に入学し1915年に中退。翌々年の1917年にアナポリスの海軍兵学校に入学。このとき建築家のジェームス・モロー・ヒューレットの娘、アン・ヒューレットと結婚し、船の航海中の航跡から後にフラーが発展させる事になる学問体系、シナジェティクス(synergetics)の発想を得ます。

長女が誕生するも1922年には病死。幾重にも度重なる事業の失敗で失意のどん底にあえぐフラーに自殺の計画が頭をよぎります。しかしミシガン湖のほとりで自殺を計画中、回心。「誰かの為に生きようとする人間を神は見捨てないだろう・・・」という直感のもと、それまでの自分の人生を振り返り、「これまで自分の為だけに生きてきたから失敗ばかりだったけれど、これからは他人の為に生きていこう」と思い返し、それから数々の研究や発表を共同の科学者たちと共に手掛けてゆきます。

フラー博士は はその生涯を通して、人類の生存を持続可能なものとするための方法を探りつづけました。 全28冊の著作によって、「宇宙船地球号」、エフェメラリゼーション、シナジェティクス、デザイン・サイエンスなどの言葉を広めました。デザイン・建築の分野でジオデシック・ドーム(フラードーム・ハウス)やダイマクション地図、住宅のプロトタイプである ダイマクション・ハウス、ダイマクション・カーなど数多くのものを発明しました。 彼は、『宇宙船地球号操縦マニュアル』の中で地球と人類が生き残るためには、個々の学問分野や個々の国家といった専門分化された限定的なシステムでは地球全体を襲う問題は解決 できないことを論じ、地球を包括的・総合的な視点から考え理解することが重要であり、そのために教育や世界のシステムを組みなおすべきだとしました。 全地球的に考える・・・ホール・アース、ホリスティックという言葉はフラーの造語です。工業化時代の草創期にエコロジー、全地球的思考、環境との共生、フリー・エネルギーなどを提唱し、地球を一個の限りある宇宙船に見立てて、わたしたちはその乗組員としての自覚を促したのです。そして地球型生活、循環型エネルギー経済の必要性を説き、様々なエコ技術を提唱したフラー博士はエコロジーの父とも称されます。 近年、ナノ・テクノロジーが注目されていますが、ナノ・テクに応用される新発見の元素である炭素C60は、ジオデシック構造型の分子で、フラー博士に因んでフラーレンとも呼ばれます。また、彼の数理幾何学・構造学のテンセングリティ理論やシナジェティックスは、スカイプ・ネットワークなどの通信工学にも広く応用されています。その研究の全貌は「宇宙エコロジー」や「コスモグラフィア」を通して、現在も研究・解析・応用されつつあり、研究の途上なのです。


※シナジェティックスとシナジー

シナジェティクス(synergetics)とは、バックミンスター・フラーが提唱した独自の概念であり、学問体系である。
おもにシナジー幾何学とも訳される幾何学的なアプローチで、この宇宙(自然科学や人文学、果ては人類や自然、宇宙まで人間が知覚
しうる全てを具象から抽象、ミクロからマクロまで)の構成原理であるシナジーを包括的に理解しようとする学問。
フラー博士は、シナジーを説明するときに水を喩に出します。水素と酸素の結合が、両元素と全く異なるH20という物質を生み出すこと。
個々の要素である酸素と水素には、その結合である水の性質を予感させるものはありません。酸素と水素の結合からなる水、この働きはシナジーだというのです。
結合による第三の働き、属性こそはシナジェティックな現象と言えます。それは、わたしたちの、経験、直観、思考を観察し続けることによって新しい生命の営みに気付くということなのかもしれません。
科学の中に直観と美の形式を見出し、シナジー幾何学を基本に多くの発明をなした現代のレオナルド・ダ・ヴィンチと言われるフラー博士。
その遺産は、死後30年を経てようやく解読されつつあります。近年のナノ・テクノロジーやフラクタル数学はその形態進化のひとつということなのでしょう。通信分野においてもスカイプ・ネットは、フラー博士のティセングリティ理論の応用と言われています。
フラー博士の地球型テクノロジーは、様々なモバイル・ツールのプロト・タイプをなしていたことに驚く人は多いのではないでしょうか。