五角形と六角形を形作る三角形の集合体でできたフラー・ドーム・ハウスの構造
合理的な三角形の集合体
私たちの周りにある建物は、直方体や円柱、球体などあらゆる立体を組み合わせて空間を作っています。この中でも球体は、最も小さな表面積で 同じ体積の空間を覆う事ができる最も効率の良い立体といえます。表面積が小さいということは立体を作るための材料が最も少なくて済みます。 また、球体は外からの力に対して面全体に分散するので丈夫な建物を造ることができます。玉子の殻が薄くて丈夫なのと同じ理由です。 このように自然界においては球体は最も理想的な形として形成されてきました。この丈夫で省資源的な考えを推し進めたのがフラー・ドーム・ハウスの構造です。最小の部材で最大の体積を持つ球を再現するにあたり、正多面体のうち最も球に近い正20面体をベースに各面体を次々に分割して膨らませていき三角の面で球体を作ろうという考えです。
三角形という形は、最小にして最強の構造体とも呼ばれ、外圧に対して非常に強い抵抗があります。この事は、四角形の対角線 に「筋交い」を通すことで、2つの三角形にして強度を上げるという補強方法でよく知られていると思います。フラー・ドーム・ハウスは この三角形の集合体で出来ています。
セーフティ・ハウス
「自然に強い球体構造」
宇宙構造や原子構造を構成する多くの要素は球体でできています。球体とは、外部からの圧力を面全体に分散させて和らげる自然界の理想的な形といえます。ドーム・ハウスは、この球体構造を強固な三角形の組み合わせにより作り上げ、地震だけでなく、積雪といった 自然災害にも強い力を発揮します。
「風圧を受け流す形状」
ドーム・ハウスは、三角形のパネル同士が相互に力を分散しあう面構造であると同時に、内部空間を広くとりながらも低重心構造である事、最小限の材料で構成された軽量化構造である事、流線型のフォルムである事等により、台風などの大風でも建物全体で力を受け流します。 この事は、日本で一番高い富士山山頂のレーダードームにも活かされています。
ナチュラル・ハウス
「効率的な空気の流れ」
四角い部屋と違い、球体構造なのでドームの壁に沿って空気の自然対流が発生しやすく、天窓を開放したりファンを回すことで より効率よく室内の空気を循環させることが可能です。
「理想的な音空間」
ドーム・ハウスでは、中央で発した音が全体に広がり反射し、更に拡散した音が部屋中に響き、自然な音が楽しめます。 内装仕上げを工夫することでより一層、独創的な音響空間を創ることができます。
ドームハウスの耐震性能
ドームハウスが通常の建物と大きく違う点は・・・
枠組壁工法とトラス構造とリング効果という3つの力が複合的に作用することで地震力に対して力強く抵抗することにあります。
①枠組壁工法とは・・・
いわゆるツーバイフォーと言われる欧米では標準的な木造住宅の構法です。一般的な木造の住宅(在来軸組工法)では柱や梁といった軸組によって建物は作られますが、 枠組壁構法では、壁・床・天井といった部分を面として捉え、その面自体をパネル化する事で強度を高めています。 面全体で支えるという概念は、最近の在来軸組工法の床や壁にも応用されており、非常に高い剛性を持ち、ドームの床・壁・天井は全て枠組壁工法の考えで出来ています。
②トラス構造とは・・・
柱と梁で出来る建物でも間に斜めの筋交いを入れると変形に対してとても強く、形が崩れにくくなります。 筋交いを入れることで2つの三角形の形が生まれますがこの安定した形状である三角形の形を基本単位とし、三次元的に組み合わせた建物をトラス構造といいます。 外部の力からの変形に対して強く抵抗します。ドームの屋根部分は全てトラス構造により出来ています。
③リング効果とは・・・
ドームが持つ独特の円形・球形は輪になっている事で建物全体で力を分散させる事が出来ます。 リング状になっている事で力が極端に一部分にかかる事が避けられ、安定性を持ちます。
④力強く抵抗するとは・・・
ドームの地震に対する考えの基本は力強く抵抗する事です。長い人類の歴史の中で、地震に対する建築の考えとして地震力に対して力強く踏ん張るか、受け流すかの2つの 考えがあります。どちらも理に適った方法で、日本の昔ながらの伝統構法では、基礎と直接繋ぐことなく、地震の力を受け流しており、近代の建築では、大地にしっかりと固定する事で 地震がおさまるまで耐えうる事に主眼を置いています。 また、現行の建築基準法でも後者の手法を主に認めているため地震に対してはいかに強く抵抗出来るかが重要なポイントです。
⑤振動実験結果より
ドームハウスの耐震性能を検証する為に広島大学・松本先生と広島国際大学・藤谷先生の協力により振動実験も行っています。
A:木造伝統構法(築80年) 固有周期 南北0.37 東西0.40
B:鉄筋コンクリート造住宅(新築) 固有周期 南北0.14 東西0.16
C:軽量鉄骨造住宅(新築) 固有周期 南北0.14 東西0.16
D:在来木造軸組工法住宅(新築) 固有周期 南北0.14 東西0.19
E:木造ドームハウス(新築) 固有周期 南北0.095 東西0.093
(固有周期は短ければ短いほど地震力に対してより強固に抵抗した数値です。)
振動実験の結果、ドームハウスは多くの建築手法の中でも一番強固に抵抗している事が分かり、枠組壁工法+トラス構造+リング効果という3つの
構造概念が複合的に機能していることが証明されました。
ドームハウス愛媛 設計担当 越出匡人